専攻紹介(観光創造専攻)
社会を変えていく「共育」の場

観光創造専攻は2007年4月に創設された新しい領域の専攻ですが、皆さんは観光学とはどんな学問だとお考えになるでしょうか。ひょっとすると、そもそもなぜ観光などが学問の対象になるのだ、あるいは海外旅行の企画運営や、ホテル経営などは学部レベルの教育で十分で、はたして大学院で研究する価値があるのか、といった疑問をお持ちになるかも知れません。それも当然かも知れません。なぜなら数年前までそれは、少なくとも日本の国内では常識的な考えであり、何より証拠に、日本の国立大学法人において観光研究を専門領域とする大学院はおろか学部でさえも皆無でした。しかしながら、最近になってようやく観光の経済的・社会的・文化的な意義が認識されるようになり、それを反映して日本の国立大学法人としてははじめて北海道大学に観光学に関わる大学院が設置されることになったのです。
観光創造専攻ではどのような教育研究が行われているのでしょうか。その最も基本的な理念は、観光「創造」専攻という名前が示すとおり、従来のあり方を超えた新しい観光を構想し作り上げていくことにあります。従来の観光は、ただ受け身的にレールに乗って名所旧跡を巡っていく他律的なものであり、また、確かにホテルや飲食業などに多少のお金が落ちることはあってもそれがかならずしも地域活性化につながってこなかった嫌いがあります。そのような従来の観光の限界を超えて、観光創造専攻では、少子高齢化社会の中で疲弊しつつある地域の再生につながるような、次世代型のツーリズムを生み出す人材の育成を最大の目標としています。
そのような目的を達成するため、学生の皆さんには三つの力を身につけていただくことが必要だと考えています。一つめは文化をデザインする力。これは、地域に埋もれている固有の文化遺産や歴史、自然景観や町並みなどを再解釈し、新たなそして持続可能な観光資源として活用したり、既存の文化や景観を組み替えて新しい文化を創造して観光客に提示したりする力を言います。二つめは地域をマネジメントする力。新しい観光は地域の協力がなければ成り立ち得ません。そのため、地域で生活する人々と観光の関係者との間の協働関係を作り上げ、地元の人びとを巻き込んだ形で地域興しにつながるようなあり方の観光を構想したり、いわゆる民産官学の連携を促すことによってそれぞれが持っている知恵や経験を結集させたりする能力がそれです。三つめは世界とコミュニケーションする力。いま、特にアジア地域において、外国旅行者の飛躍的な増大に伴う「観光ビッグバン」が起こりつつあり、訪日観光、いわゆるインバウンド観光の振興のためには、いかにして中国をはじめとしたアジア地域から多くの観光客を誘致するかが鍵となります。外国人観光客を迎え入れ、文化の違い認識しつつ相互的な交流が起こるような出会いの場を演出していくためには、外国語能力や異文化理解を土台とした高度なコミュニケーション能力が必要になってきます。我々は学生の皆さんが個々の特性を生かして、こうした力のいずれかに磨きをかけ、それぞれの専門領域で活躍できるような人材の育成を目指しています。
さて、観光創造専攻の特徴の一つとして、多様なキャリアをもった学生の受け入れということがあげられます。これまで社会人学生として受け入れてきた学生の中には、旅行会社、商社、国家・地方公務員、銀行・証券、NPO法人などのキャリアを経てきた方が含まれています。また出身も北海道はもちろん、本州から九州沖縄に至るまで多様です。また、中国・台湾・韓国などの国・地域からの留学生も毎年2割ほど入学しています。こうした多種多様な学生が存在するという環境は大変有意義で、他の大学院では得られないような刺激と広い視野を与えてくれます。また本専攻修了生との間でも相互的な交流が継続し、文字通り民産官学の垣根を越えた幅広いネットワークが形成されつつあります。
教員集団の中には、地域活性化や文化資源の利・活用という実践的な目的を掲げて国内外のフィールドを駆け回る研究者もいれば、そもそも旅や観光とは何なのか、人はなぜ旅や観光に出かけようとするのか、人が出会い、コミュニケーションが成立する条件は何なのかといった、より理念的・理論的研究に携わる者もおり、その研究領域は多岐にわたります。そして本専攻では学生を教育する際に、このような多様な教員がさまざまな視点から助言を与える体制を取っています。すなわち、ひとりの学生に対して単独の教員が専門に特化した形で教育するよりはむしろ、複数の教員がそれぞれの立場からスキルや知識を与えて「協育」することを念頭に置いています。さらにまた、学生と教員の間あるいは学生同士の間の相互的なコミュニケーションを大切にしたり、修了生や学外の関係者を巻き込んで研究会や講演会を開催するなど、本専攻は「共育」の場として機能しているとも言えます。さあ、皆さんもこうした共育の場の仲間に加わって、観光を通してこれからの社会を変えていくための旅に出かけませんか。
観光創造専攻長 西川 克之





















