2013年5月10日国際シンポジウム「領土をめぐる日中韓摩擦とメディア」(12年11月18日開催)の資料

昨年開催された国際シンポジウム「領土をめぐる日中韓摩擦とメディア」の講演及び討論の内容を掲載いたします。

貴重な参考資料ですので、無断転載はご遠慮ください。

開催日時: 2012年11月18日(日) 13時10分~

会場: 慶応義塾大学 グローバルセキュリティ研究所 東館8階ホール


(司会) 皆さん、こんにちは。これから国際シンポジウム「領土をめぐる日中韓摩擦とメディア」を始めさせていただきたいと思います。同時通訳、よろしいですか。今日は日本語と韓国語の同時通訳がありますので、韓国の方は2番、日本語はチャンネル1番で、皆さんお使いいただきたいと思います。
私は今日の進行をさせていただきます慶應義塾大学総合政策学部の李洪千(リ・ホンチョン)と申します。よろしくお願いいたします。今日もかなり長いシンポジウムになると思うんですけれども、皆さん、ぜひ最後まで議論をしていただきたいと思います。
早速、開会のあいさつをいただきたいと思いますが、今日は放送人の会の代表幹事、テレビマンユニオンの最高顧問の今野勉さんから開会のあいさつをちょうだいしたいと思います。今野さん、よろしくお願いします。(拍手)

(今野) 今野といいます。今、テレビマンユニオンという制作会社の名前を言っていただきましたけれども、その役員もやっておりますし、まだ現役で演出家もやっていますけど、ここに来たのは日本の放送人の会の代表幹事という立場で来ました。
放送人の会というのは放送制作者の集まりなんですけれども、日本の放送人の会と、それから韓国の放送人の会、韓国のPD連合、今日の主催者の1つになっていますけれども、それから中国のテレビ芸術家協会。この3つの団体が年に1回集まって、日韓中テレビ制作者フォーラムを開いています。お互いの番組を出し合って、それを討論したり批評を言ったり、あるいはお互いのテレビ界の事情を話したり、それを通じて人的な交流が生まれていると。そういう東アジアのテレビ制作者の集まりを毎年やっております。
今年で12年になるんですが、ここ数年前から東アジアの制作者たちが10年以上お互いに交流の続けているというのは大変珍しいということで、北海道大学の東アジアメディア研究センターの渡邉先生とか玄(ヒョン)先生が我々の活動に関心を持ってくれました。去年、札幌でその日韓中テレビ制作者フォーラムを開かせていただくことになって、そのご苦労をなさったのが渡邉先生、東アジアメディア研究センターですね。これが放送人の会と北大の出会いだったんです。今年12回目が韓国の慶州でありました。今回は北大からも直接フォーラムに参加するという、そういう親密な関係になりました。
この12回目、今年の慶州の大会は10月に行われたんですけど、ご存じのように、その直前、8月と9月に日本と韓国、日本と中国の間に領土問題が起こりました。こういう問題が起こったときに日韓中テレビ制作者フォーラムはどう対応するかという問題が起きました。私は代表幹事として、この問題を日韓中テレビ制作者フォーラムでまったく触れないでおくというのは、それは日韓中テレビ制作者フォーラムの存在理由にかかわると考えました。
とはいえ、この問題を直接フォーラムで3カ国のテレビ制作者が何の準備もなしにいきなり話し合うことは非常に危険であることも分かりました。どうするかということで、渡邉先生とか玄先生とか、あるいは我々のフォーラム担当幹事を通じて中国、韓国のテレビ制作者たちがどういう考えでいるか、領土問題についてどういう考えであるか、そのことを話し合うことについてどう思っているかについて、いろいろ情報を聞かせていただきました。
急いでやるのは非常に困難だということは私も当然分かりますし、かといって無視することはできない。それで私が考えたのは、もし話し合いができないとしても、我々はこの今回のフォーラムでは話し合わないということを話し合う。最低でもそのぐらいやらないとだめだと。そのことによって何のメリットがあるかというと、我々はこの問題を共有の、共通の問題として認識していますよと。何も話し合わないけど認識していますよと。そういう共通の認識だけは持つことができるということで、非公式に3者でそういう話し合いをしました。
では、その後、どうするか。話し合わないということを話し合っただけで終わりにするか。それはそうはいかないだろうと。3者でまた話し合って、それは非公式な話し合いですけど、各国の主催団体がそれぞれの意思で、そういうシンポジウムに参加するのはお互い妨げない。今回の主催の中に放送人の会と韓国のPD連合、PD連合も主催団体の1つなんですけれども、その2つが入っているというのは、その2つはフォーラムの中から我々は参加するという意思表示をしたということです。具体的に今回のシンポジウムを組織してくれたのは北大の東アジアメディア研究センターであり、その趣旨に賛同していただいた慶應大学ということになって、4者の共催ということです。
非常に難しくてデリケートな問題をどうやって扱うかというのは、つまり会合を開いたために、かえって亀裂が大きくなったということも考えられるわけですから、そうではない方法があるかということで、今回もテーマとかタイトルが慎重に選ばれたんだと思うんです。
実は我々の日韓中テレビ制作者フォーラムも、渡邉先生以下が評価していただいているように長い間、続いてはきましたけれども、実は初回からほとんど分裂、分解という危機に見舞われています。それは歴史認識の問題を一番最初にテーマにしたんです。今、考えると何でそんな難しいことを第1回目のシンポジウムのテーマにしたんだ、フォーラムのテーマにしたんだと思われるかもしれませんけど、そのとき2カ国で始まったんですが、日本も韓国も話し合えば歴史認識の問題なんかは解決できるというふうに非常に簡単にお互いに考えていた。それが話し合ってみると、これは話し合いがそのまま放送されましたからね。放送されたということもあるんですけれども、非常に危機的な状況に陥ったんです。第1回目で分裂するかもしれない。
それを辛うじて乗り越えられたのは、国を代表して意見したというだけでフォーラムを中止するわけにいかない、やめるわけにいけない。我々はテレビ制作者として話し合うということでこのフォーラムを始めたんだから、続けようということで続けてきたんですけれども、毎回問題が起きます。起こらない回がないぐらい問題が起きます。それでも続けてきた。
その続ける意思というのはどこから来るかというのは、それはお互いに違うと思うんですけど、このシンポジウムはたぶん話し合うということで、今日いろいろな方が登壇しますけれども、なぜ我々は話し合わなければいけないという、そのことの確認、つまり主張が各国違うということはお互いに分かった上で、それ上でなぜ話し合わなければいけないかということが明らかになれば、このシンポジウムの意義があるんじゃないかなというふうに、非常にその前段階ですけど、何か解決策があるとか、いい方向があるかということを期待するよりは、我々はなぜ話し合わなければいけないかということが分かれば、それだけでもこのシンポジウムは成功なんじゃないかと私は思っています。
我々フォーラムができなかった、こういうシンポジウムを開いていただいた北海道大学東アジアメディア研究センターの方々、あるいは会場を提供していただいた慶應大学の方々、それと今日、登壇していただくたくさんの方々に厚く御礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。(拍手)

(司会) 今野先生、開会のあいさつ、ありがとうございました。実は先週金曜日、別のところでも歴史問題を扱うシンポジウムがありまして、長い間、日韓関係などを研究なさった大沼保昭先生の方から、日韓関係がうまく解決できない1つの要因の中にメディアがあるんじゃないかという指摘もありましたので、問題の本質ということもあるんですけれども、それをいかにして解決に持っていくのかという1つの素地としてのメディアという役割が非常に大事であるということなので、今日のシンポジウムはその延長線の方で非常に意義があるシンポジウムだなと思っております。
早速、次の第1部の方に移りたいと思います。第1部は司会の西(シー)先生の方から「メディアは領土をいかに報じたのか」ということで、2時50分までその第1部を進行させていただきたいと思います。第1部の司会を西先生の方にお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

(西) 失礼しました。それでは、これより第1部の「メディアは領土をいかに報道したのか」を開始いたします。私は第1部の司会を務めます北海道大学東アジアメディア研究センターの西茹(シー・ルー)と申します。どうぞよろしくお願いいたします。(拍手)
第1部では韓国、香港、日本のジャーナリストの方から、ぞれぞれのメディアが今回の領土問題をどのように伝えたかをお話しいただきます。報告者の方々の略歴は皆さんに手元にすでにお配りした資料に記載されておりますので、どうぞそちらをご覧ください。それではまず、韓国のMBCの金宰永(キム・ジェヨン)様、よろしくお願いいたします。(拍手)

(金) ご紹介にあずかりましたMBCの金宰永と申します。私が本日お話しします内容は韓国のメディアが日韓関係を扱う方式について、私なりに批判的な立場からお伝えしたいと思っています。学問的な考察というよりは、私がさまざまなメディアの報道の仕方を羅列しました。これはあくまでも主観的なものであり、MBCの公式見解でないことを明らかにしておきます。
もう1つ私は心配していることがあるのでお話しいたしますが、韓国の放送またはメディアが日韓関係を扱う方式について私が批判的に見ているということで、これが例えば今のように日韓関係が対立している様相があって、そこから片方の肩を持つということではりません。そういった点にまずご理解いただければと思います。
1枚の写真から話を始めたいと思います。韓国のMBCでは毎年、涙シリーズというドキュメンタリーを放送しています。全国の平均視聴率が12%も出るほど非常に高い人気を得ています。『南極の涙』というドキュメンタリーは涙シリーズの最後に放映されましたけれども、コウテイペンギンをはじめとしてザトウクジラ、またさまざまな南極に生きる生き物たちを扱い、そして南極に進出していった人間の生き様を映して大きな好評を得ました。
ところが、最初の放送が終わった後、小さなスキャンダルが起こりました。この映像、この写真が最初のエピソードに出てくるものです。つまり、日本が南極隊員として旭日旗をはためかせながら南極に向かっていくという場面です。制作チームは日本が自衛隊所属の海兵隊がこの旭日旗を掲げて南極に進出していくことを映すことによって、韓国の視聴者は日本が南極大陸に対して持っている立場を説明するだろうと考えていました。ここに出てくる旭日旗が象徴しているものは日本の軍国主義を美化しようだとか、そのような意図はまったく持っていませんでした。そんな意図がもしあったとしたら大変ですよね。
ところが、これを見た視聴者の何人かが、この場面を見たときに非常に気持ちが悪くなった、気分を害したと言って、この旭日旗を放送した制作チームに対して非難しました。そして100人を超える視聴者が番組の掲示板に書き込みをしました。その掲示板の書き込みが話題になって、メディアの記者たちがそれに関して記事を書き始めたのです。そうしてこの小さなスキャンダルは次の日、視聴率が12%あったということよりも大きく報じられたスキャンダルとなりました。
私がここで言いたいことは、この記事を量産した韓国のメディア、記者たちに対してです。1度考えてみたいと思います。なぜかというと、これが放映される1週間前に同じ映像を、同じ場面を30人以上の記者に試写会で見せています。当時の記者向けの試写会ではこの場面に対して記者たちは制作チームの意図を理解したのか、これに対して何も質問、議論を投げ掛けませんでした。記者たちはおそらく制作チームはこの場面を通してこういうことを言いたかったんだなということを理解していたんだと思います。しかし、視聴者の掲示板にこの場面に対する問題提起、視聴者からの非難の声が高まるに従って記者は記事を書き始め、さらに大きな議論を呼んだのです。
制作チームは次の日、このことを受けまして、このような内容をお知らせとして出しました。つまり、一種の謝罪文ではありませんけれども、遺憾の意を盛り込んだ文章でした。このようなものです。「ドキュメンタリーは事実に対する記録であり、日本が旭日旗を付けた軍艦を南極大陸に送ることは、それ自体が日本が南極に持っている執念、そして意思を象徴するものです。我々の意図が視聴者の皆さんにきちんと伝わらなかったことに対しては、より今後注意を傾けてまいります。ありがとうございます」という内容です。これをお知らせとして出しました。
私がこのエピソードを初めに申し上げましたのは、日本に対する韓国メディアの態度、このことから明らかに大衆を刺激する部分があるということです。そして、この記者たちはおそらくナショナリズムと言っていいのか、ともかく大衆たちが持っている対日感情を刺激することが市場において通用すると考えたようです。これは私の判断というよりは主観的な見解であります。
では、次の場面にまいりたいと思います。政治の領域で同じだと思います。小泉総理は中国や韓国など東アジアの国からの非難にもかかわらず、靖国神社への参拝を強行しました。ほかの意味で李明博(イ・ミョンバク)大統領は独島を実質的に韓国が持っているにもかかわらず、独島を訪問しました。そして日本の反発を買い、東アジアの領土問題を巻き起こしました。
もちろんこの2つの出来事の象徴するところは違うと思います。靖国神社参拝の場合は戦犯国家として日本が過去の軍国主義、またはファシズムをこれ以上反省しないという強い願意を持っていると思います。もちろん日本の立場としては靖国神社の参拝がいわゆる普通国家への回帰であると説明できるでしょうが、周辺の国家にとってはその行動は普通の国としてではなくて、軍国主義への回帰と感じられるような歴史的な経験があります。私は李大統領の独島訪問は、独島、日本の竹島を実効支配している韓国政府の立場から攻撃的な態度ではなかったと思います。むしろ、これまで韓国の外交部は独島を大統領が訪問することに対して、それほど大きな利益はないと考えてきました。
このようにお互いの象徴するところは違っても、その行動がもたらした政治的な効果は似ていると私は考えます。つまり、指導者の政治◇市場◇と呼べるものがあるとすれば、その政治市場においてリーダーの人気が高まるということです。しかし、このようにメディアの領域、政治に領域において、このようなことをするのがポピュラーなことか、これは別の側面もあると思います。
これもあくまでも私の個人的な見解であります。島根県において竹島の日を指定しました。日本政府はあくまでもそれは島根県が行ったことであるというふうに一線を画しましたけれども、韓国政府はそのように見ていません。つまり、日本が独島(竹島)に対する野望を持っているからということです。私は島根県に行きまして、この問題を取材しました。真相取材しまして、10日間、島根県に滞在し、独島を韓国の土地であると言う歴史学者だという歴史学者も会いましたし、島根県の領土であったと主張する島の住民にも会いました。
非常に貴重なフィルムを1つ入手しました。島根県が行った大きな政治イベントだったんですけれども、島根県出身の官房長官、高官、参議院議長らが参加するものです。これは当時の日本の政府ですね。つまり中央政府の立場では竹島の日は関係ないと言っていましたが、それを覆すような映像資料です。それを韓国に持ってきて編集して放送しました。
そうすると、韓国で大きなポータルサイトの一面に上って、それが大きく掲載されて、検索サイトでも非常に大きな注目を浴びました。それを放送する前に制作チームは視聴率も高いと思いましたけれども、そうではありませんでした。この竹島の日ということは、韓国のテレビにおいて大きな人気を得ているテーマではなかったんですね。個人的な経験となりました。
もう1つ紹介できるのが2005年に独立60周年、韓国では解放と言いますけれども、解放60周年を迎えて、MBCでは『天皇の国』というドキュメンタリーを企画して放映しました。これもまた商業的には大きな成功は上げられませんでした。それで私は日本との関係に関する韓国のメディア市場がポピュラーかという質問に対して少し疑問を持つようになりました。
それでは次に独島問題です。李大統領が8月10日に独島を訪問しました。新聞では、第2部に韓(ハン)先生がおっしゃいますので、私は手短に紹介したいと思います。だいたいの新聞では、進歩系では李大統領の訪問は非常に懸念すべきものであるという反応を見せました。特に一番進歩系といわれる京郷新聞の場合は、日本と軍事情報協定を進めていた大統領がなぜ突然この独島上陸を強行したのかということでトップに載せました。そして、また保守的な東亜日報の場合ではトップで、命を懸けて守るべき真の我が領土という李大統領の発言をそのまま載せました。新聞において進歩的な新聞と保守的な新聞が多様なスペクトラムで、一方では李大統領を批判し、もう一方ではそれは当然の行動である、指導者として当然するべきことをしたというような報道をしていました。少し例外があるとすれば、一番保守と言える朝鮮日報が少しばかりの懸念を示したことにあります。
個人的にはおそらく保守的な読者層においてはこの問題をそのようにアプローチするのがよいだろうと考えた結果だと思われます。しかし、京郷新聞やハンギョレ新聞、またはオンラインメディアにおいては、日韓の軍事情報保護協定の問題の方が大きいと感じていたようです。そのため日韓軍事情報保護協定について話し合っていた政府が急に独島を訪問したことについて批判的に書きました。これもまた進歩新聞、またオンライン新聞を見る読者にとっては日韓軍事情報保護協定の方が大事に思われていると考えた、その前提の上で記事を書いたと思われます。そのように私は解釈をしています。
一方の放送、テレビの方に移りたいと思います。放送は私はこのようにタイトルを付けてみました。独島問題はありましたが、日韓軍事情報保護協定の問題はなかったということが当時のニュースの内容でした。それはMBC、KBS、SBS、韓国の地上波テレビ、つまり韓国の放送業界を8割占めている3つの放送局で共通した内容でした。
当日、MBCにおきましては4件、またKBSでは3件、SBSではまた4件、関連した内容を報道しました。3日間全部合わせまして18件に上る内容を報道しています。しかし、この18件の報道の内容の中で、李明博大統領と韓国政府がなぜ、どのような理由をもって独島を訪問し、またそれが1カ月間推進していた日韓軍事保護協定とどのような関係があるのか、深く考察した取材は見られませんでした。
私は当時、李明博大統領の日本に対する政策、それに対する真相リポートがなぜなかったのか、それについて取材をしてみました。ニュースにかかわる人たちに対して独島問題という非常に敏感な一種について日本ではなくて、つまり李明博政府の態度を問題にする場合、視聴者の批判を買う可能性が十分に存在にしていたと思います。
また、これは事実でありますが、このような報道内容がなかった背景には、当時オリンピックがあったからです。当時、6割ぐらいはオリンピックに関する内容が占めていました。独島を訪問した当日、独島問題をタイトルにしましたけれども、その次の日からニュースのタイトルからは消えていました。
ドキュメンタリーの領域におきましてはKBSが唯一報道をしました。MBCの『PD手帳』であるとか、こういった番組はMBCのストライキによりましてうまく放送されなかったという面もあったと思います。KBSの場合ですが、李明博大統領の独島訪問以後、8月19日、『独島の証言』というタイトルで放送し、また10月には日本は独島を放棄したという歴史的な追跡番組を放送しました。
しかし、やはり李明博政府におきまして、この日韓関係をどのように形成してきたのか。また、その中でなぜ日韓軍事協定を結ぼうとしたのか。また、独島訪問という態度につながっていったのかということを考えなければなりません。
そろそろまとめに入りたいと思います。私は日本、韓国、また中国で、つまり北東アジアの3国におきまして領土問題をめぐるナショナリズムが登場しているということは仮定的であり、また結果的であり、民主主義の後退と非常に大きな関連があると思います。これはメディアの領域におきましても同じであると思います。民主主義的なメディアの環境は一国の社会におきまして国家主義、またナショナリズムを引き起こす、そういったチャンスを遮断するものであると思います。
また2点目としましては、肯定的な見解として市場における流れというものを考えてみました。今、韓国で最も人気がある外国の作家、また国籍を問わず人気があるという人は村上春樹であります。彼の本は韓国におきまして数百万部以上売れていると思います。また今年成功している韓国の映画においては、今年だけ日本の代表的な推理小説を原作にしています。『容疑者X献身』、また『火車』、これが原作になっています。
私は今、韓国におきまして進歩的な知識人は日本に対して無条件、敵対心を見せているということは商業的に賢明ではないと判断しているようです。日本の文化を受け入れ、また日本の知識人の成果物を受け入れることに対して大きな抵抗感がありません。そういった側面があるとすれば、多くのインターネットの媒体は『南極の涙』、こちらの写真でも分かりますように、非常にセンセーショナルなテーマをもちまして大衆を刺激する、そういった部分もあると思います。
また私がこういうふうに申し上げておりますけれども、放送制作者が放送するということ、それもやはり勇気が必要なことであると思います。おそらく私がこういうふうに申し上げている内容、また日本の放送人、またメディアの関係者、また中国のそういった関係者も同じような姿勢を持っていらっしゃるのではないかと考えています。以上で発表を終わらせていただきます。ありがとうございます。(拍手)

(西) 金さん、発表ありがとうございました。次に香港、『亜洲週刊』の毛峰(マオ・フォン)様、よろしくお願いします。

(毛) 皆さん、こんにちは。ただ今、ご紹介にあずかりました香港の『亜洲週刊』東京支局長、毛峰です。まずこのたび、北海道大学、渡邉教授にお声を掛けていただき、日本、韓国のメディアの関係者とこのテーマについて検討できますことをお礼を申し上げたいと思います。『亜洲週刊』の特派員として本日は主に3つの◇命題◇において、日中尖閣諸島紛争の発端について『亜洲週刊』がどのような見地、または原則にのっとり報道してきたかをご紹介させていただきたいと思います。
まず『亜洲週刊』についてご説明したいと思います。『亜洲週刊』は現在、唯一全世界の華人を対象に発行されている中国語のニュースウイークリーです。今、香港の民放グループに属し、25年もの歴史があり、主に香港、台湾、中国大陸、シンガポール、マレーシア、アメリカ、オーストラリア、日本などで発行、愛読されています。弊誌は権力に屈せず、真実に基づく報道というメディア精神を◇基礎◇に、グローバルな視点より大陸、香港、および重大な国際時事問題を独自に報道してきました。その独特な切り口故に、高い影響力と信頼を有しています。
例えば過去の報道を見ますと、あと中国の1度話題になっておりました王立軍(オウ・リツグン)事件、薄熙来(ハク・キライ)事件、あるいは中国盲人人権活動家・陳光誠(チン・コウセイ)、香港64記念イベント、および71でも、これはほぼ中国大陸では報道されることはできないことですが、でも我々は一メディアとして何とか責任を取って、各方面で報道なされています。それによって特に中国が◇敏感◇にしているテーマ、例えばチベット問題、ダライ・ラマ、中国経済発展および政治改革などをテーマに取り上げてきました。
これは見たらすぐ分かると思いますが、◇江蘇省◇でもデモを行っていました。あと右側は、香港は最近社会がすごく不安定の状態になっていますが、その原因はなぜなったか、それもうちの特集で香港の◇重大な◇矛盾に絞って皆さんに伝えています。大陸では厳格な報道規制はコントロールの体制が敷かれている中、こうした◇ギョウジツ◇な報道が海外のみならず、弊誌は大陸からも絶対な評価と支持を賜っていました。
次は今回の日中尖閣諸島紛争に関する報道について述べさせていただきます。今年4月から、元東京都知事、石原さんの尖閣諸島購入の案から9月まで、日本政府による国有化以来、日中両国は尖閣諸島の主権をめぐり激しく対立し、国民感情にまで影響が著しく、記念すべきあった日中国交40周年に一転して、最も厳しい局面に陥ることになりました。
華人にとってこのことは一番の関心事である故、弊誌はさまざまな面において、かかわる日中領土の紛争について独自な観点に立ち、迅速かつ客観的な報道をしてきました。報道回数は近時ではほぼ見られないほど多かった。言い換えれば尖閣諸島はやはり住む場所が違うけれども、すべての華人にとって最も重要かつ注目を集める問題でした。
通常であれば弊誌は特集号に、ほぼ重大な時事のニュース、あるいはホットニュースとして取り上げ、専門的な意見あるいは分析を取り入れた上で記事として書き上げます。それ故、1回が限度でした。しかし今回の日中領土問題に対して、5月から今まで弊誌ですでに6回もの特集を組んでいました。特に9月の3回には、これは9月の尖閣諸島をめぐる特集ですね。9月最終は左側です。それは中国の南海、フィリピンとの領土問題も行ったことと、あとは日本の尖閣諸島の問題について含まれて報道された特集なんですけれども、16日は日本尖閣諸島における戦略路線解説についての特集になりました。
これは読者に対して、日本はなぜ、必ず中国共産党18回党大会開催までに、手段を問わず国有化に踏み切れと明白に報道されました。あと30日のものは、尖閣諸島はもし、あと戦争は勃発したらどうするか、日中間のいろいろ実力とか政治、経済、いろいろなものが分析されました。
あと右側は、これは中国語は◇ホウチョウ◇人民戦争ですね。ホウチョウは尖閣諸島◇ホウエイ◇の意味ですね。ホウチョウは人民戦争になった、それはなぜなのか。ご周知のように、9月11日、日本の国有化の後、中国100都市以上で抗議デモとか、いろいろ日本に対して抗議活動は行っておりました。その中で一部分暴動化になってしまった。実際この真相はどうなっていますか。この原因は何ですか。あるいは中国の民衆は本音から本当に反日かどうか。そのテーマについて含まれた特集ですね。
その中で我々がはっきり言われたことは、中国国内で頻繁した反日デモから暴動化◇ゲンゾ◇、あるいはデモをけしかけた中国政府の意図に反し、一時コントロール不能となった時代について、毛沢東氏、過去に喚起した人民戦争、すなわち文化大革命のことに例えた記事に載せられました。
また最新号については、面白いことなんですけれども、歴史的なことに掘り出して、人に知られざる国民と◇トツゲキダイ◇のつらさは、90年代に台湾の◇秘密裏◇に企画された尖閣諸島◇トッケツ◇占領企画を暴露して、これはトッケツ行動のため◇......◇られていたとされ、当時の台湾総統の李登輝(リ・トウキ)によってこの企画は否定されましたが、こういうことに1度失敗になってしまった。でも最近、正確に言って先週ですね、弊誌は単独取材により現職の馬英九(マ・エイキュウ)総統、こうした事実があるとの裏付けが得られています。また特集以外にも弊誌は特別報道にて◇確度◇に基づく分析や見方を読者に提供してしまった。
第2点は『亜洲週刊』における報道特集と◇資料◇。時間の関係で最近尖閣諸島◇トウコウ◇についても詳細報告が残念ながらできませんが、弊誌がこのテーマを報道する際に特に注意を払っている点を申し上げておきますと、おおよそ以下のようになります。第1は客観かつ冷静な報道の立場にあること。歴史的な見地から70年代より続けられてきた尖閣諸島の主権をめぐるさまざまな活動や立場を明らかにしつつ、とりわけ台湾と大陸がまず尖閣諸島の問題で共通認識を達成する必要を論拠し、一方、日本の国有化行為のみならず、行為の解説にも注力し、なぜ中国18◇代◇にまで、一区切りとした◇のが◇言及しました。読者に対しても多角的な視野で情報を提供してきました。その視野の広さはとうていメディア規制がかかる大陸メディアでは許し得ないものでした。
そのほか日本政府が各台湾◇ギョコ◇で積極的な情報収集活動、これは左側の特集ですね。特に日本、台湾の活動のことですね。これはやっぱりうちで独自で調査して、日本は尖閣諸島について、台湾のホウチョウ関係のいろいろな活動は情報収集のこともすべて皆さんに情報を公開になされていますが、その意味で我々はなぜそんなことが報道になされるとか、やっぱりメディアの一員として各方面で客観的に日本、中国、大陸は、あるいは台湾が含まれて、本当はこういうことに対して何か活動になっているんですが、これからこの活動に対して、これからの影響は何が受けられるとか、その目的で我々も例がない6回の特集になってしまいました。
さっきおっしゃったように、右側ですね。90年代、国民党、そのときは秘密に企画した特殊部隊ですね。あと1度、尖閣諸島に上陸して日本の◇トウタイ◇いろいろ現在、つくったものは壊して、中華民国のものはつくって、中華民国の主権を宣言する、そういう企画ですね。でも全部作ったんですけれども、特殊部隊の兵士たち、あと◇遺書◇も書いて、これは全部のものが載せられているのですが、結構面白さで大きな反応ができています。しかし残念ながら最後の段階で、李登輝さんはそのときは台湾の大統領だから、1度止めようと指示を出して、そういう企画は何とか◇リュウサ◇になりました。
あと2番目は我々の『亜洲週刊』に対しても権力に屈せず、真実を報道すること、イコール、メディアの責任と考えています。弊誌は◇メイカ◇の情勢を政府と国民に伝えた上、中国大陸と台湾当局が尖閣諸島の問題において、まず取り続けてきた◇グウメン◇的な◇ダチョ◇政策をやめさせるべく、さらに大陸と台湾は小平(トウ・ショウヘイ)氏◇テイソウ◇した、あと棚上げ政策、皆さんご存じのように、その棚上げ政策はやっぱりダチョ政策と我々も明白にしました。現実に基づいて、直面した現状に真に目を向け、解決方法を見いださなければならない必要性を訴え続けてきました。
一方、5月の初め、石原さんの行動に対して、日中両国も危機に落としかねないと、リスキーなものであるといち早く指摘しました。でも、そのときは中国大陸一辺倒のメディアは全部、石原さんはパフォーマンスと言われていました。何とか日中関係はそんなことは、あと石原さんに対しても影響が受けられないと報道が出ていますね。そのときは我々もいち早く実際そういうことはそうではない、本当は日中関係は危機になりそうと指摘されました。
事実としては先週、中国科学院、これは日中関係の指導者にアドバイスした研究員たちも日本に来られました。実際彼たちの目的はここでちょっと話しても大丈夫だと思いますが、やっぱりこれからも日中間で速やかに緊張関係を柔らかにするか、密接な意見交換の目的で来ました。そのときの意見交換のときはやっぱりさすがに、あと中国方面は5月からずっと日本の国有化に対して、あと尖閣諸島に対して甘すぎる、軽視になっていると言われたんですけれども、そうするとやっぱりもしもっと早めにこういうことに注視して、どういう形で日本とやりとりして解決の方法を探した方がいいかなと今の反省の言葉が出ていましたが。
あと3番目ですね。言論統制により中国大陸メディアの弱点。こういうことを私が少し話したいのですが、数百に上る中国都市での反日デモと一部暴動化現象について、中国メディアと世論は対日経済制裁を行うべき、日中に◇一線◇は抱えざるを得ないと、日中軍事力◇ヒラク◇分析といった一辺倒の報道がなされているが、この中で弊誌は明確に日中戦争の勝利者などは存在し得ないと意見を出した。
また日本に対して経済制裁を◇加える◇ことは、これは◇ヒトヲナクテテガイソク◇ないわけではないのとまったく同じ原理で、さらに言えば中国より過去にバブル崩壊、あるいは為替変動と、3.11大震災を経験してきた日本の方が圧倒的な体制が強いと思われます。それは中国から日本へ制裁は無理だとはっきりいわれていますが、このことについて、フェニックスとか大勢の中国メディアはもっと冷静に考える◇ようになりました◇。

(西) そろそろお時間です。

(毛) 時間の関係で、これで終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。(拍手)

(西) ありがとうございました。次にテレビ朝日報道部の安江様、よろしくお願いします。

(安江) テレビ朝日の安江でございます。今日はこんな大切な機会を、貴重な機会をご提供してくださいまして、ありがとうございました。放送人の会の皆さん、それから韓国PD連合の皆様、それから北海道大学の皆様、ならびに慶應義塾大学の皆様、本当にありがとうございます。それから放送の分野での先輩方がたくさんおられて、いったい今、現役のテレビ人は何をやっているんだと今日怒られるかもしれませんけれども、現場での現実のことを今日は事実をご報告したいと思います。よろしくお願いいたします。
それでは、まず領土問題を日本のテレビのニュース情報番組がどう報じたのかということをご報告する前に、全体を若干申し上げたいと思います。日本のオピニオンというのは左派と右派とで対峙していると。左から右までオピニオンはいろいろなオピニオンがあります。冷戦時代はこれが明確に分かれていました。左派と右派とで拮抗するような状態になっていました。
それからもう1つ、今は右派が強くなってきているわけなんですけれども、これは中国についてなんですけれども、小泉政権発足のときに中国に親しみに感じる、あるいは中国に親しみを感じないというのが逆転しています。それから中国に対する世論なんですけれども、いろいろなところが世論調査をしていますけれども、今回の尖閣問題、石原さんの発言、それから国有化の宣言というふうに節目節目がありましたけれども、4月、5月の段階ですでに中国に対してよくない印象を持つ人がもう8割を超えていました。それから国有化をした後、反日デモがあれだけ続いた後、10月に行った朝日新聞の世論調査、あの時点でも国有化を評価した人が過半数を超えていました。それからこれはもっと前、4月に石原知事、当時の知事が購入計画を発表した直後は国民の7割が石原さんの方針に賛成していました。そしてご存じの通り、14億円という募金が集まったわけです。
それから韓国についても、これはやはり左派と右派とで対峙していました。しかし、中国と違うのは2002年にワールドカップサッカーを共催しました。それから『冬のソナタ』をはじめとして韓流のドラマ、それからいろいろ音楽もたくさん入ってきまして、これが根強いファンという者が韓国に対して親しみを感じるという人たちを支えていました。
実際、世論調査を見ましても、これは去年のものと今年のもの、これは1つは内閣府が行ったもの、それからあと毎日新聞が最近行ったものをそれぞれ見てみると、内閣府は去年の10月で、今年の10月はまだ出されていませんけれども、当時で6割が親しみを感じると。それから今年の9月の毎日新聞と朝鮮日報の調査で親しみを感じる人は47%。これは内閣府の数字よりは少なくなっていますけれども、同じ毎日、朝鮮日報の定点観測をした場合でも、3ポイントしか減っていないそうです。つまり、竹島上陸問題などがあっても、もともとワールドカップなどのベースがあるものだから、あまり影響されてないと、親近感の薄い層が態度を硬化させているのではないかという結論です。
日本の社会構造というものをご説明します。これはある事実、真実があって、それをいろいろなメディアが報道して日本の国民に向かって報道しているわけですけれども、日本の国民ははっきりとしたオピニオンを持っているエリートであったり、あるいはエリートじゃなくても、とにかく私は例えば選挙があったら、どこに投票しようということをあらかじめ決めている人、オピニオンをはっきり持っている人と、そうじゃない人と大ざっぱに分かれます。
今日ご報告するテレビのニュース、あるいは情報番組というのは特にこの中で幅広い階層の大衆を対象にしています。今日の私のキーワード、これは理解したいことしか耳に入らない、そう思っている大衆に向かって情報を発信していく。つまり、都合のいいことは受け入れられるんだけれども、日本が都合が悪くなったり、自分たちに都合が悪くなったりすると、急に興味が持てなくなると。そこに向かってテレビは情報発信をしているというのが今日の一番の私のメッセージです。
そして日本の構造、政治、あるいは相手国、中国、韓国に対して関心のない人であります。それから娯楽や社会ネタの延長線上で見ると。それから素人の視点で議論を俎上に載せます。食の安全だとか日本の失業問題とか、バブル崩壊だとか、◇バクガイ◇したということに関係してくると、ぱっと関心を持つんですが、そうじゃないとあまり基本的には関心がないです。
かつてはそうじゃなくて、私は二十数年前に中国に駐在していましたけど、あの当時、中国に取材している人の数はとても少なくて、どちらかというと本当にオピニオンを持っている、あるいは企業の中、あるいは政府の中でも責任ある立場の人が中国に駐在したりとか、中国との間を行き来したりする。あるいは韓国との間もおそらくそうだったと思います。つまり、エリート同士がお互い話し合えば、あるいは国家の代表同士が話し合えば解決していたという時代でした。今は違います。
テレビはこの間、どういう役割を果たしてきたかというと、やはり社会の木鐸としてジャーナリズムの世界で生きてきたという自負はありますけれども、何をやってきたか。つまり、今までかつては政治に対してあまり関心を持ってなかった人に対して、政治に関心を持ってもらうように動かしてきたという自負はあります。これからも動かしていくという上で、茶の間の視聴者のできるだけ多くの人たちに向かって語り掛けていきたい。
これは新聞と違うんですね。新聞は1部売れば、その中にテレビ欄もあれば社会面もあり、それから社説もあれば政治面もある。だから全部読まなくても、買った人がその中で興味のあるところを見てもらえばいい。だけど、テレビはそうじゃないですね。その時間帯にテレビをつけている人をできるだけ多くつかんでこなければいけません。常に視聴者がどう読むのか、どう先読みして視聴者にどう理解されるだろうかということを常に意識した番組づくりをしています。
これは実は先週の数日前、木曜日、11月15日の7時すぎの各局の、これは弊社の報道局の部屋の中で撮った画面なんですけれども、テレビ朝日が上の段ですね。それからNHK、日本テレビ、TBS、それからフジテレビと画面が並んでいます。この日は重要なニュースが、関心の高いニュースが3つありました。一番関心の高いニュースは国会が解散するよというのが一番大事なニュースだったはずです。
テレビ朝日以外は各局第1項目は国会解散へでした。TBSさんはわりと早くこの1項目目を終わって、すぐ森光子さんが亡くなったよと、国民的な大女優でしたというニュースに早く移りました。テレビ朝日は第1項目からずっと続けてオマーン戦で日本が辛くも勝ったと、サッカーワールドカップに大手をつかんだというのをずっとやっていました。カウンター攻撃ではなくて、カウンター編成といわれまして、つまり各局みんな政治ニュースをやるだろうと。同じことをやっていたら視聴率が取れないわけですね。つまり、国民の幅広い層に関心を持ってもらえないということで、あえて違うことをやるわけです。
テレビの欠点というか課題ですね、これはつまり娯楽の要素がある。それから善と悪とか、改革対保守とか、男性対女性とかいうように単純化すると。それからあとはいろいろな扱いがその中で◇小さく◇なります。それから日常生活の延長線上でとらえると。
国際ニュースも中国、韓国、あるいはアメリカに対してはかなり報道していますけれども、ヨーロッパとかアフリカとか、南米、中東なんかに関してはほとんど報道していません。私が毎朝早く行くと、ロイター、APの素材の配信の映像を見るんですけれども、シリアやイラクからおびただしい悲惨な映像が毎日のように入ってきます。だけど、ほとんどニュースにすることはないです。先日、山本美香さんという方がシリアで殺害されましたけれども、あのニュースがあるまでシリアに関してはほとんど報道してきませんでした。
こういうこともあって実は今、戦争の危機ということをいわれていますけれども、実際兵器を発射したりするような戦争というよりも、情報戦争というものに今、注目する必要があると思います。中国はその情報戦争をやっています。情報戦争にとても弱い構造になっているということも言えると思います。
私は今、朝の『やじうまテレビ!』という番組にいます。この時間帯はどういう時間帯として位置付けられるかというと、各局みんな同じように生放送の番組をやっています。一番やはり力が強いのはNHKです。皆さん、例えば子供が遠足に行くというときに、NHKのニュースの中で報じられた天気予報で雨と言ったら今日は遠足がありませんというような、そういう◇指示◇が出たご記憶があるかと思います。
NHKに何とか伍して視聴率を取らなきゃいけないということで各局は頑張ってきたわけです。この時間帯に視聴率を取ると、この日1日いい視聴率が取れるわけですね。つまり、朝起きてテレビをつけて、右肩上がりで視聴率が上がっていきますので、できるだけ早く視聴率を上げておけば、その日1日の視聴率が高くなるんですね。なので、とても重要な時間帯なんです。日本テレビさんは『ZIP!』という番組を放送しています。それからTBSさんは『朝ズバッ!』、それからフジテレビさんは『めざまし』を放送しています。弊社は『やじうまテレビ!』と。
視聴者層としては、つまりこの時間帯にテレビをつけている人をできるだけ多くつかんでこなきゃいけないということになりますと、例えば5時台は女性の視聴者層が多いです。それから6時台は出勤前のサラリーマンが中心です。つまり7時になると、もう時間だ、会社へ行かなきゃということで出ていくんですけど、その前のサラリーマンの人たちを中心にウオッチしていくと、いい視聴率が取れる。それからその後、7時台は残った家族、それからあとは定年退職、家にいらっしゃる高齢者で人生経験などの豊かな方々というのが対象になります。
『やじうまテレビ!』は今、ニュース情報番組といわれていますけれども、かつてはワイドショーといわれていたわけですね。つまり、かつては芸能人のニュースがとても多かったです。だけど、今は1993年細川政権が発足したあたりから政治のニュースがワイドショーで扱われるようになってきた。
一方で、ニュースも昔は視聴率よりも、とにかく内容の方が重要なんだということで、重要なニュースから順番に放送してきたんですけれども、そうじゃないと、やっぱりNHKと同じことをやっていたらだめだと。みんなが関心のあるものから報じた方がいいということで両方やっていましたら、ワイドショーとニュースの垣根がとても低くなってきまして、ほとんど今、区別がありません。なので、『やじうまテレビ!』なんかはニュース情報番組という言い方をしています。ただ弊社で言えば『報道ステーション』とか、夕方の『スーパーJチャンネル』なんかはニュースと言っていますけれども、実際に内容は『やじうまテレビ!』なんかとあまり変わりません。
スタジオに登場する人の役割としては、司会者、男女の2人と、それからあとはコメンテーターが出てきますけれども、だいたいオピニオンとして提言できる人、それからあとは庶民の感覚に立ってお茶の間の庶民の代わりになっていろいろ質問したり、あるいは疑問を提示していく人がいたり、それからあと女性の代表というような、そういう役割の分担という形で出演します。
8月10日から9月30日というものを中心に研究したわけですけれども、この時期、先ほど韓国のMBCさんもそうだとおっしゃっていたんですけれども、ちょうど李明博大統領が上陸した日というのはロンドン五輪の真っ最中でした。ほかにもこの時期というのは確かに竹島、尖閣というのは大きなニュースになったんですけれども、ニュースの中心に韓国、中国があったわけですけれども、でもほかに大きなニュースがこれだけありました。地震関係、それから政治も今日の解散して選挙につなげるときの核になるような動きが起きつつありました。
時系列でざっと並べて、どういうところに注目しながら放送したかというと、上陸、それからあとは同じ日にサッカーの男子の日韓戦、ロンドン五輪ですね。これで「独島は我が領土」というプラカードを見せたというのは、これは絵的に注目されました。つまり、テレビは映像になるかどうか、音があるのかどうかとかいうことにとても注目していくわけですね。それからデモはそれ自体、破壊行為になろうがなかろうが注目するわけです。
それから8月15日に、これはフェニックステレビが一緒になって、香港の14人と一緒に上陸したわけですけれども、このときはその数日後にフェニックステレビが撮影したおびただしい情報がもたらされましたので、これは私たちもふんだんに使って放送しました。
それから竹島上陸をめぐっては、日本から遺憾の親書が出されたり、それからその後、国際司法裁判所に提訴するよということで文書が送られたりしたんですけど、それをお互い突き返したりというようなことがあったわけですが、私は日本の霞が関の外務省の前で、韓国大使館の公使が書類を持っていって突き返されるところを見て、とてもつらかったです。あの韓国の公使とは数カ月前に一緒にお酒を飲んだことがありまして、とてもよく知っている人だったんですけれども、とてもつらかったです。けれども、絵になるものですから、繰り返しこれも放送しました。
その後、中国でデモが相次ぐに従って、ニュースの中心は韓国から中国に移ってきました。日本の東京で行われたデモなんかもずいぶん取材しました。それから先ほどあった旭日旗に関しても、旭日旗というものがアジアでどうとらえられているのかということも、しっかりとらえて放送しました。
それからあとは9月17日に向かって、だんだん近づいてくるわけですけれども、このころ日本には楽観論が実は広がっていました。総理から、日本政府から中国に対して親書を持っていかれたとか、それからあとは政府に近いコメンテーターの有識者の中からは、今回政府が20億円で購入ということで合意したわけだけれども、閣議決定され、実際20億円払うということになったわけだけれども、じゃあ、地権者はお金を得ることができた。栗原さんという人ですね。それから東京都は政府が買うということで公的な機関が買うという結論を得ることができた。それから中国側は石原慎太郎みたいなナショナリストの人が暴れて問題を大きくするということがなくなったから、三者三様とも痛み分け、だからある意味ではお互いが一定の得をしたということになって、うまく治まるんじゃないかという話も出たりしましたので、わりとちょっと油断してきたようなところがありました。
その後、ウラジオストクAPECで立ち話による野田さん、胡錦濤さんの会談があったわけですけれども、その直後の半歩も譲らないという温家宝さんの声に驚きました。それから実際に購入を閣議決定した後、監視船が現れたり、民間◇旅行◇がキャンセルになったり、それから軍事演習の報道が盛んに中国テレビによって行われたりとか、それから実際暴行があったり、それからここにある羅援(ラ・エン)少将という人は中国の中でわりと強硬な発言をされる方で、日本の中には中国の石原慎太郎と呼んでいる人もいます。9月14日に監視船が領海に侵入したり、あとはデモの破壊行動があったり、この辺から非常に予想だにしなかったことが起きてくるわけです。
一方で、情報戦も始まってきました。久しぶりに習近平(シュウ・キンペイ)さんが姿を現したりとか、それから実際には現れなかったんだけれども、中国のメディアは盛んに漁船1,000隻が尖閣諸島近海に到達するかもしれないという話もありました。それからあとは世論調査で、環球時報なんかは戦争が起きる可能性は過半数を超えたという報道がありました。
それから日本もこれは情報戦に乗っかったのかどうかよく分からないですけれども、デモは習近平氏が主導したんじゃないかという報道が産経新聞などであって、この情報にはわーっとそういう情報もあるよということで、テレビが乗っかって報道するということをしました。
あとは中国の軍艦が尖閣近海に現れたという情報ももたされましたし、それからあとは読売や日経に、当局から補助金が出ていたとか、あるいは報償金が出たというような報道があって、デモはやらせだったんじゃないかと、完全に官制デモだということで、これはまたぱっと日本のテレビニュース情報番組は飛び付きました。そのほかのご覧のような放水の応酬なんていうのも絵になりましたし、それからあとは国連での野田さんと楊潔チ(ヨウ・ケツチ)外相とのやりとりなんかも大変絵になったわけであります。
領土問題をどう報じたのか。つまり、国益に合った都合のよい、あるいは理解したい部分しか報道しなかったわけですね。つまり、私たちは確かに尖閣を例えば編入したときというのは日清戦争の真っただ中だったとか、竹島を編入したときは日韓併合の直前で、とても韓国が抗議できる状態になかったことは、私たちはよく分かっていました。だけど、それを放送する面積はとても小さかったです。
それから例えばアメリカのスタンスなんですけれども、これは領土問題にくみしないという、だけど安保条約の対象であるということを両方言っているわけですけれども、領土問題にはくみしないよと言っている方は、あまり日本にとって都合よくないものですから、あんまり大きく報じませんでした。
あとは日本がどこでどう損したのかということが中心だったわけですね。じゃあ、竹島対応をどこでどう間違えたのかという、日本がどうしてこのように追い込まれてしまったのかという観点での報道はしました。それから棚上げに関しても日本政府の言い分を中心に報道したわけです。
あと民意の評価の仕方なんですけれども、これも民意、今回官制の性格が強かったわけですね。官制の性格が強いということになったら、単にデモはやらせだったんじゃないかということだけじゃなくて、世論調査として出されたものだと言っても、どこまで信用できるかどうか分からないわけですよね。例えば丹羽大使を襲撃したことについて8割の人が支持したとか、軍事行動を支持した人が9割超えたとか、戦争の可能性があるよということが中国のそれぞれの新聞の世論調査で5割超えたというのは、これだって情報統制をしている可能性があるわけですね。どこまで本当の民意か分からないわけですよ。だけど、それをそのまま中国はこれだけこういうことをやっているよと言って、そのまま受け売りで放送しました。
それから習近平さんが主導したというのは産経、これはもちろんきちっと取材をして放送されているんだと思うんですけれども、もしかしたらこれは反習近平側から意図的に出された情報かもしれませんよね。それから集団指導体制ですし、それか