メディア文化論分野メディアをとりまくあらゆる文化現象を論じながら、メディアを問いなおす

分野概要

メディアとは何かを根底的に考えると、情報伝達の道具として見るだけでは不十分なことに気づかされます。その活字デザインそのものが物質的に自己主張したり、映像が非合理な力で私たちを魅惑するように、メディアは私たちに働きかける主体でもあり、私たちの認識や身体性を組み替える力をもつものです。メディアと私たちのこのインタラクティヴな関係を注視すると、そこからサブカルチャー、ジェンダー、世論、イデオロギー形成などの多彩な文化現象が生まれ、それ自体ひとつのメディアとなって、さまざまな歴史的文化的関係性や価値を体現・伝播させる様子も見えてきます。メディアをとりまくさまざまな文化現象の分析・読解への道がひらけてくるのです。そのようにメディアをとらえたとき、メディアはもはや中立・透明なものとは程遠い、批判的吟味の対象として現れるでしょう。とくに、多文化社会へと向かう現代社会のなかで、そこで文化間の公平かつ創造的な相互作用、共生を促すために、メディアが果たせる役割も問いたいと思っています。ヨーロッパ、アジア、オセアニアの各地域の専門家もそろっており、地域研究的視点も取り入れることができます。

分野の教育目標

メディアが体現するイメージや情報を所与のものとして受け取らず、その形成の磁場をなす政治的・社会的関係を分析しながら批判的に受容・発信する力を育てる。またコンテキストを敏感に読みとり、多文化社会のなかで相互理解を深めるために寄与する力を養う。

分野活動紹介

本講座の大きな特徴として、フランス、ドイツ、ロシア、中国、韓国、イギリス、ニュージーランドなど、世界各国の地域文化研究の専門家がそろっていることがあります。外国生活経験も豊富な国際性豊かな視点から、あえて北海道という足元の文化を見ると何が見えるか。まさに「グローカル」と呼ぶにふさわしいそんな実験を、2010年3月より、本講座主催公開研究会「草の根文化勉強会」で行ってきました。本講座は、さまざまな研究活動に取り組むスタッフからなりますが、その一例にこの「草の根文化」研究をあげることができます。「草の根文化」とは、発信者も担い手も地域住民である地域密着型文化、コミュニティ特有の歴史や問題をテーマにするコミュニティ・アート、民間伝承や土着文化に基づくフォーク・アート、独立系サブカルチャー、障害者、高齢者、民族的・性的マイノリティといった普段顧みられない視点による積極的自己主張を伴う文化など、最近世界各地で盛んに生まれてきた文化動向を、一つのパースペクティブに見る視点です。この公開研究会では、毎回地元北海道で草の根的な文化活動に関わってこられた方を招き、話をしたり聞き取りを行うもので、これまでに市民参加劇や映画制作、地域に根差した芸術NPOやジャズ、お祭りによる文化交流、地域高齢者からの聞き語り、コミュニティスペース運営、医療・高齢者施設に芸術をもちこみ、生活の質やコミュニケーションを活性化しようとしている方、消費主義から自立、DIY精神でクリエィティブに生きる「農的くらし」のライフスタイルを都会人の間で提唱されている方など、多彩な人々を招いてきました。 こうして重ねた勉強会の成果を集大成すべく、同年札幌(10月30日)と東京(11月6日)で行った公開シンポジウム、「地域発・草の根文化の時代!」を行いました。テーマ・導入者として当講座で現代芸術文化論を担当する堀田真紀子、マルチ・メディア表現論を担当する野坂政司、アーツ・ミーツ・ケア学会理事のブルース・ダーリング、コメンテーターとして、情報デザインの専門家李知恩(北海道教育大学函館校)、アーチストであり地域に根差したアート発信を目指すNPO札幌アーチストギャラリーディレクターである大井敏恭、同じくアーチストとして活躍しながら医療施設での作品展示を行い、空間の人間化に寄与してこられた森口ゆたか、ルドルフ・シュタイナーの建築理論を参照しながら、人間的で治癒力のある空間づくりを手掛けてこられた建築家、岩橋明希菜。そうした多彩な顔ぶれとともに、「草の根文化」を明確に定義、歴史的社会的コンテキストの中でのその意義、役割を明らかにすると同時に、実例を紹介、また、草の根文化を育み、持続的に発信し続けるために必要な支援体制、メディアの役割などについて議論する充実したシンポジウムになりました。 しかし北海道の草の根文化の広がりと豊かさは、プログラムだけではとても網羅できません。これを補ったのが、このシンポジウムに併設して札幌会場で行われた「北海道の草の根文化概観」展示です。そこでは北海道の草の根文化の様々な実例がパネル展示と映像のデモンストレーションで体験できるようにされました。 と同時に、実際北大から、その歴史や場所性に根差したかたちで草の根文化を発信するとどうなるのか、実例を示すべく、シンポジウム会場である北大遠友学舎と、となりの北大第二農場牧牛舎サイロで、アーチスト坂巻正美(北海道教育大学岩見沢校)と大井敏恭により「草の根アート」の作品展示を行いました。 地域(北海道)に根付いた文化のあり方の実例を札幌の市民の方と考え、大学外で散発的に行われている重要な活動を大学内で理論的に総合するとともに大学外に問いかける、開かれた大学の姿勢を示す良い機会にもなりました。 が何よりの成果は、この催しを機に、メディア文化論を中心に、教員スタッフ、事務局スタッフのみならず、OBも含む学生のみなさん、関心や志をともにする学外のさまざまな方々とひとつに協働作業ができたことです。とくに「北海道の草の根文化概観」展示は、ほとんど当講座の学生の手によるものです。 「地域の時代」が叫ばれるなか、地域主義の閉塞に陥ることなく、地域で進行中のさまざまな文化現象の本質や真価をとらえるためにも、草の根文化のグローカルな研究は、これからますます重要になってくるでしょう。この実験はまだはじまったばかり、「地域発・草の根文化の時代」ウェブサイトも、日々更新しています。皆さんの参加を心待ちにしています。

担当教員

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