
外国語教育センターのウェブサイトをご覧の皆さんの中には、大学時代にしっかり外国語を身につけ、その後の研究や仕事に役立てたいと考えている人が多いのではないでしょうか。一方で、生成AIがさらに発展すれば、外国語を学ぶ必要がなくなるのではないかと考える人もいるかもしれません。確かに、AI翻訳の精度は日進月歩で向上しています。近い将来、誰が見ても全く問題のない翻訳ができるようになるでしょう。ただ、忘れてはならないのは、母語話者であっても、AIを活用して自らが書いた文章を改善しているという事実です。AI翻訳に頼る非母語話者が、AIを活用して改善された母語話者の文章に対して、それを上回る優れた文章を作成できるのでしょうか。そんな世界で外国語を使って積極的にコミュニケーションを取っていきたければ、自分自身がその言語をしっかり学び、理解しておく必要があります。積極的に外国語を使って生きていくつもりがなくても、また、パンデミックのような特異な状況においても、外国語を使って、さまざまな人たちとさまざまな形で交流する機会があるのが、グローバル化・デジタル化した現代社会の特徴です。つまり、好きであろうと嫌いであろうと、皆さんがこれから生きていくうえで、外国語学習とのお付き合いは避けて通れないということです。実際、全学教育を終えた学部生や大学院生たちが外国語を使いながら専門分野の学問を学ぶことは、今や当たり前のことになっています。
それでは、外国語を身に付けていために何から始めたらよいでしょうか。また、外国語を学ぶうえでのリソースが北海道大学のどこにどのような形であるのでしょうか、そして、それらを活用するにはどうすればよいのでしょうか。そのようなニーズに応えるために、外国語教育センターでは毎年、新入生に「外国語学習お助けガイド」というカラーのパンフレットを配布しています。このパンフレットには、北海道大学で提供している外国語学習や外国語を使った学びのリソースに関する情報をまとめています。2025年度は、第1学期に北海道大学で外国語をどのように学ぶことができるかに焦点を当てた「お助けガイド1」、第2学期は、2年次以降の専門課程に移行してからの外国語学習に焦点を当てた「お助けガイド2」を配布します。いずれも、新入生が学部4年(ないしは6年)間、また人によっては大学院生になってからも折に触れて参照できる「保存版」です。
外国語教育センターが実際に提供しているものとしては、全学教育における英語および初習外国語(中国語、フランス語、ドイツ語、韓国語、ロシア語、スペイン語)科目、自律的な学習のためのオンライン教材や図書館との連携で行っている英語多読プロジェクトなどが挙げられます。また、全学教育の「外国語特別講義」は、継続的に外国語学習を行いたい院生や教職員が一部の外国語演習科目に参加できる仕組みです。また、演習として学習できる外国語は、上に挙げたものに加えて、イタリア語、チェコ語、ハンガリー語、ポーランド語、フィンランド語、インドネシア語、台湾語、トルコ語、ギリシア語、ラテン語です。
最後に、外国語を学ぶこと自体の面白さについても強調しておきましょう。特に、外国語を学ぶ面白さは、さまざまな表現を通じて、言語を話す人々の文化や歴史に触れることにあると考えます。また、文法や単語を勉強していくうちに、暗号のように見えた文字列が、意味を持った文章として読めるようになります。意味不明だった「雑音」も、やがて「会話」として理解できるようになり、まるで真っ暗だった世界が少しずつ明るくなるような、本当にワクワクする経験です。
皆さんが外国語を学ぶ理由はさまざまで、苦手意識を持っている人もいるかもしれません。仕事で使えるようになるレベルの外国語を身に付けるには、地道にコツコツと学び続けることが必要で、時間もかかって本当に大変です。それでも、言葉に表れる歴史や文化を感じながら、世界が広がっていくワクワク感をぜひ味わってほしいと思います。「お助けガイド」も含め、外国語教育センターが提供するリソース、さらには北海道大学が持つリソースが、皆さんの学びの一助となれば幸いです。
2025年4月
北海道大学外国語教育センター長 田中 英資