◆内容紹介:「まえがき」から
本書は2016年12月に刊行した『現代中国を知るための44章【第5版】』を基礎として、内容を全面的に改稿し、再構成した最新版の現代中国概説書である。従来通り、政治、経済、社会、外交の4分野の多様なテーマを取り上げ、【第5版】発行以降に起きた出来事や新しい情報、データを最大限盛り込むよう努めるとともに、写真や図表も刷新した。特に、2017年10月に第19回党大会が開かれ、2期目の習近平政権が発足した事態を受けて、新情勢の丁寧な解説に注意を払った。
中国について考えることは、日本、アジア、ひいては世界の有り様を考えることにつながる。例えば、中国の「脅威」について考えるとき、中国モデルの功罪を論じるのは当然としても、真に問うべきなのは中国モデルの挑戦を受けている日本や欧米の民主主義モデルの本来的な価値そのものなのだ。結局のところ、中国問題とセットで目の前に突きつけられているのは「私たち自身の問題」なのである。
メディアで中国が語られない日はほとんどないほどその存在が重みを増している今日、好き嫌いの感情や独りよがりなイメージを排して「中国の実像を知る」ことの重要性はこれまでになく高まっていると言うべきだろう。本書がその一助となることを切に願っている。
◆目次
改革・開放40年と中国型発展モデルの功罪――まえがきにかえて
Ⅰ 習近平政権2期目の内政動向
第1章 建国以来70年の政治激動――曲折の歩みと累積する歴史の負債
第2章 世界最前列を目指す「中国の夢」――ナショナリズムに彩られた青写真
第3章 習近平「一強」体制の始動――第19回党大会と長期政権実現への布石
第4章 膨張する巨大政党のメカニズム――強化される組織基盤と進行する世代交代
第5章 一党独裁システムの内部矛盾――「人治」と「党の指導」がもたらす歪み
第6章 抑圧強まる人権・民主化――浸透する「普遍的価値観」への危機感
第7章 主要な政治思潮と劉暁波の民主思想――封殺される「自由派」の言論空間
第8章 「腐敗撲滅」作戦の内実――党による「党の管理」の矛盾と限界
第9章 波紋を広げる軍事強国路線――海洋進出、宇宙開発を急ぐ「党の軍隊」
第10章 漢族優位の多民族「共生」国家――少数民族の「同化」危機と政治経済格差
第11章 出口の見えないチベット問題――「ダライ・ラマ亡命」60年の閉塞感
第12章 火薬庫の新疆ウイグル情勢――先鋭化するイスラム系民族の抵抗
第13章 習近平の「宗教中国化」――宗教興隆の陰で強まる党の介入
Ⅱ 転換期経済の新発展戦略
第14章 「新常態」下の成長モデル――中高速成長への転換と経済構造改革
第15章 急成長するニューエコノミー――「信用の担保」と「社会問題の解決」
第16章 守りの国有企業改革――市場原理と一線を画し、党の管理・指導を強化
第17章 沸騰する不動産バブル――拡散する投資マネーとの攻防戦
第18章 株式バブルの発生と崩壊――シャドーバンキング規制が資金流入を加速
第19章 「上海自貿区」への期待と失望――「ヒト・モノ・カネ」自由化の模索
第20章 本格化するイノベーション――新たな価値をつくる「創造大国」への挑戦
第21章 社会主義と市場経済――「曖昧な制度」が生み出す不確実性
第22章 変容する対中直接投資――「世界の工場」から「世界の市場」へ
第23章 論議を呼ぶ「一帯一路」――巨大経済圏構想がもくろむ勢力圏拡大
第24章 深化する日中経済交流――隣りあう経済大国の相互補完の潜在力
第25章 中国GDP統計の信頼度――過大評価と過小評価のはざまで揺れる数値
第26章 激増するエネルギー需要と環境保全――高度成長が引き起こす世界的波紋
Ⅲ 多元化する社会の地殻変動
第27章 台頭する中間層の政治社会意識――交錯する改革志向と安定志向
第28章 社会を変える「80後」「90後」――起業意欲に富む一方で愛国心も旺盛
第29章 メディア改革と「報道の自由」――ネット時代の管理はどこまで可能か
第30章 拡大する情報空間の世論――SNS「民意」をめぐるせめぎあい
第31章 「公民社会」のカギを握るNGO――高まる存在感と政治による統制強化
第32章 ジェンダーとフェミニズム運動――女性の権利拡大は進んだか
第33章 都市と農村で広がる教育格差――発展のひずみに翻弄される子どもたち
第34章 愛国主義発揚の歴史教育――排除される不都合な歴史事実
第35章 海外移民と亡命者たち――改革・開放の風波のなかで越境する文学
第36章 信者が急増するキリスト教――政治への幻滅を背景に社会的弱者を吸引
第37章 根強い「食の安全」不信――後手に回る行政の管理・監督体制
Ⅳ 揺れ動く対外関係と台湾・香港
第38章 協調と摩擦の大国外交――国益グローバル化を背景に積極攻勢
第39章 岐路に立つ米中――「新しい大国関係」へのつばぜりあい
第40章 相互不信の日中40年――「成熟した関係」を阻む歴史問題
第41章 尖閣をめぐる日中の攻防――激突する領有権と緊迫事態の恒常化
第42章 日米をにらんだ対韓外交――対北と経済が拍車をかける相互依存
第43章 接近と反目の中朝関係――核ミサイル開発に翻弄される疑似同盟
第44章 ASEANへの「南進」政策――経済・援助をテコに存在感拡大
第45章 一触即発の南シナ海紛争――「内海化」へ向けた中国の実効支配
第46章 疑心暗鬼の中印2大国――南アジアの「覇権」をめぐり綱引き
第47章 中露の深まる連携――多極化、対米を念頭に戦略的共闘
第48章 重層化する対欧州関係――経済優先で後景に退く人権・民主化
第49章 中南米に延伸する「一帯一路」――「米国の裏庭」を脅かす経済外交
第50章 アフリカを覆う「中国の影」――加速する経済進出と高まる対中警戒感
第51章 狭まる台湾包囲網――経済緊密化の陰で増大する統一圧力
第52章 香港を侵食する「中国化」――形骸化が進む「一国二制度」の行方
