現場から思考し、未来の時間を創る

清水賢一郎教授

「書を捨てよ、町へ出よう」――かつて作家の寺山修司はそう喝破しました。右肩上がりの高度経済成長が約束され、「三種の神器」に象徴されるモノの所有に齷齪する高度消費社会が謳歌されるなか、詰め込み教育で教科書漬けになった若者・学生に向けて投げかけられた問題提起であり、時代の変容に鋭く斬り込む叛逆の書でした(ちなみに、伝説の劇団「天井桟敷」の旗揚げと同じ半世紀前(1967)に出された同書は、札幌農学校のクラーク博士の名言を換骨奪胎した「青年よ大尻を抱け」なる痛快絶倒のアジテーションで開幕)。

さて、時代は今、どこに来ているのでしょうか。むろん日本だけを見ていては狭隘に過ぎます。宏壮なパースペクティブに立ち、時空を跳び越え、複眼的かつ巨細自在に現象に迫らねばなりません。その際、「町へ出ること」は今なお有効でしょう。「町」とは、都会に限りません。村落をも含め、ひとが生きている〈現場〉のリアリティを身をもって摑むことが肝要です。「読万巻書、行万里路」(明末書画家董其昌語)といいます。臨床的な知を携え、未到の将来を拓く気概に盈ちた同好の士を、観光創造は待っています。

観光創造研究コース長 清水 賢一郎教授

研究と教育の目的

未来のツーリズムを拓く職業人・研究者の養成

観光学は確立されたディシプリン(学問分野)ではありません。これまでは、経済学、経営学、政治学、法学、社会学、歴史学、文化人類学、民俗学、農学、工学、医学など、あらゆる学問分野を総動員し、観光という現象の解明に取り組んできたのが実状です。しかし、観光に関する教育が徐々にその歩みを進めてきたことは確かです。変わりゆく社会に対して、自ら変革の先駆けとなり、新たな現象を創り出す人材を養成することこそ、これからの大学に課せられた使命といえます。

本研究コースは、まさにこのような創造志向の研究・教育を行うことを旨として2007年度に発足した観光創造専攻を引き継ぐものです。本コースで学ぶ学生は、単一のディシプリンに沿って勉強するのではなく、自ら研究課題を見つけ、その実相に目をこらしつつ、それに応じた研究方法論を選択し、必要な知識を身につけながら、その課題の解決を目指していくことになります。そしてこのような経路をたどることで、学生たちは将来、職業人・研究者それぞれの舞台において、観光にかかわる創造的な仕事を展開していくことができると信じています。

専門科目

観光創造研究コースの専門科目は、「観光文化」、「交流共創」、「観光地域経営」、「国際観光開発」の4つの科目群で構成されています。

授業は、各科目群に対応する講座(観光文化論講座、交流共創論講座、観光地域経営論講座、国際観光開発論講座)と現代日本学講座の教員のほか、学内の他の研究科・研究院、および学外の教育研究機関、民間組織に所属する教員スタッフが、各自多様な専門性や社会文化的背景、キャリアを最大限に発揮しつつ、有機的に連携しながら担当します。

また、上記の専門科目に加え、観光とメディアとを架橋する多彩な「コース融合専門科目」が開講されており、学生はそれぞれの興味関心や問題意識、方法論、アプローチの必要性に応じて、効果的な履修を選択できます。

アカデミックキャリアな各種演習授業はもちろんのこと、学外の実務家講師による実践的な授業展開も本学院の特色であり、観光創造研究コースではJTB所属の客員教授による「観光地域ビジネス論演習」が開講されています。また、スペインのバルセロナ大学ホテル観光学院との連携を通じて、招聘教員による講義やバルセロナで行われるサマースクールへ参加する機会等も用意されています。